『感じない男』、「<私>にとって男とは何か」 森岡正博著
- [ Post Date ]
- 2008/06/05
- [ Category ]
- 読書ノート
男性が、自分の性意識、性行動の否定的な面を、人前にさらし、逃げも隠れもせずにそれを分析した、稀有の作品だと思う。男性の欲情の生理的、心理的しくみ、自分もそうだというロリコンの心理、制服フェチの心情、子ども時代にさかのぼるご自身の性体験の歴史。同じ体験をした誰もが恥じて語らなかったことを、きわめて率直に、冷静に分析している。自己を、性を知ろうとする探究心の靭さに、心から敬意を覚えた。
この2作とも、「男の不感症」が大きなテーマとなっている。森岡さんにとって不感症は、男の性意識、性行動、さらにジェンダーに関わるさまざまな行動を根本で決める、重要なファクターである。森岡さんの実体験によると、男は射精で一瞬の排泄の快感を覚えるが、すぐに、空虚で虚脱した状態に墜落し、決して至福感など得られない。そこから、男たちの、女から批判される意識や行動が導かれてしまうと森岡さんは主張する。男は、至福感に満たされる女にたいし、自分はとてもそうなれないと敗北感を感じ、それゆえに女性憎悪をいだき、女性を支配しようとし、またそんな男の身体をもった自己を否定して女性や少女になろうともする、という。
森岡さんは、男のセクシュアリティが多様だと認め「男はこういうものだ」ではなく「私はこうだ」と述べるよう注意を払っている。しかし、「男の不感症」については、私の見聞した範囲から考えると、やはり、男性一般に言えることではないと思う。ここまで重要なファクターとして、不感症を考えるならば、「射精後のどうしようもない空虚感などは、生まれつき生物学的に決まっている面がとても大きいと私は思う。」「もう治らないかもしれない。」(『感じない男』49頁)などと決めず、他の男性はどうなのか、本当に変えられないのか、より検討してはどうだろう?
森岡さん自身の不感症の体験の記述を読んで気になるのは、マスターベーションとセックスの区別が殆どされていないことだ。マスターベーションのあと空虚感に陥る男性が多いことはよく聞く。森岡さんも書いているように、「溜まってきた」から「抜く」、身体部位で言うと局所的な行為でしかないことなので、充実感はとぼしい。しかしマスターベーションの快感とセックスの快感を、同レベルにおかない男性は、むしろ多いだろう。セックスがマスターベーションと違うのは、第一にコミュニケーションである点。第二に局所的行為ではなく、全身の行為、さらにいうと心身のすべてを注いだ行為である点。森岡さんのセックスについての記述には、この二点がどちらも無いのだ。「好きな女とセックスできてよかったという精神的な満足感や幸福感。」しか語っていない。
セックスという身体コミュニケーション。キスや愛撫や、ハグや、さまざまな触れ合いは、相手といつくしみあい、喜ばせあい、認め合う、人間としてこれ以上は無い親密なコミュニケーションだ。日本も影響をうけた中国思想では、氣の交流というし。こんな深いコミュニケーション自体の喜びが、探求不足なのではないだろうか。そしてまた、セックスは心身すべてを注ぎこむ行為である。生殖器が身体の外部についている男性でも、セックスは全身、全心身をもってするもので、充実したセックスは全身の状態をかえる。会陰や頭頂がゆるみ、めぐりがよくなってとどこおりがなくなり、緊張のあと充足したリラックスがおとずれる。昔から交合は、どんな憂いも退散させ、病を払う「百薬の長」と言われてきた。全身全霊で死ぬほどやってみたら感覚もかわるのではないかしら。
視点を変え、身体論的にみると、首の後ろの締まり、腰の後ろのS字湾曲は、男性の性機能に連動している。それが不十分なら、そこに手を当てるなどして性機能を育てる方法がある。また、男女とも、脚の内側に力が不足し、腰や生殖器の感覚が不十分な場合、足親指の裏、足親指の付け根、膝の後ろ、脚の付け根などの硬直を緩めてその感覚を向上させることもできる。私もこの後者をしていただいたことがあるが、足の親指の裏、膝の後ろなどが弛むと、軽くなった脚を伝わって、じんわーーっと暖かいものが腰にのぼってきて、腰の内部もほんわかとあたたかくなり、より生命力を増した感覚があった。
このように改善の方法はあるのに、不感症が生物学的に決定されて変えられないと考えられていることは残念だ。
思想も、コミュニケーションのありかた、身体のあり方に規定されていることを強く思わされる。そして、ロリコン、制服フェチなども、コミュニケーション、身体の変化により、変わる可能性が大きいと思う。
森岡正博『感じない男』ちくま新書 2005年
森岡正博「<私>にとって男とはなにか」 大越ほか編『思想の身体 性の巻』春秋社 2006年
- [ Post Date ]
- 2008/06/05
- [ Category ]
- 読書ノート
- [ Trackback ]
- http://www.typepad.jp/t/trackback/308495/12919136
