『私の夫はマサイ戦士』永松真紀著
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- 2009/04/12
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- 読書ノート
こんな日本女性がいるんだ!!
たまたまこの本を手にとって、扉写真の、健康そうな日本女性とマサイ戦士の夫のツーショットを見、目をみはってしまった。夫はひきしまった黒光りの身体、細く長く編んだ髪に真っ赤な民族衣装をまとう。写真を嫌がっているらしく少し身構えている。まるで、黒いヌーか何かの野生動物のよう。この結婚は、野生動物との結婚さながらだ。
偶然手にした本だが、夢中で読み終えてしまった。
著者は、「身体の野性、身体の知性」を体現しているような、生命のきらきらした人だ。心がみずみずしく、堂々と自信をもち、大事なことだけにまっしぐらになり、行動的。この著者の人柄と、マサイの男性と運命的な出会いをし、結婚してしまうという、常識をはるかに超えた出来事とに、ぐいぐいひきつけられた。
パリでのカメルーン人との恋愛と破綻。ケニア人とのナイロビでのマニャンガ経営(マニャンガとは、個人経営の路線バスで、大衆的人気の的。外装がぎんぎらで、中では大音量で流行音楽を鳴らし、ドライバーがファッショナブルでかっこいいというから、「走るクラブ」といったらいいのか)。その共同経営者との結婚と離婚、という前半の話も、波乱万丈で驚かされるが、彼女の本領は、その後で真に発揮される。
伝統的な放牧生活を続けているマサイ族は、近代化の進むケニアの中で、今は少数となり、遅れていると蔑視される存在になっている。ツアー添乗員の彼女だが、全く観光の対象とはなっていない、数年から十年に一度のみおこなわれる、マサイの成人式「エウノト」に、仕事をはなれて個人として、間近で接する幸運にめぐまれ、人生観がひっくり返る程の衝撃をうける。
数ヶ月にわたる「エウノト」のクライマックスの、予想を絶した気高く激しい高揚は、いつまでもさめない興奮を残したが、それと共に、群を抜いて風格のある、凛として近づきがたい一人の男性、ジャクソンのことを、彼女は忘れられなくなる。
「彼はマサイ。彼と私の住む世界は、全く違います。・・・同じ世界に住む木村拓哉なら、まだ付き合える可能性も少しはあるかも知れません。そう思えば思うほど、切なくなってきました。・・・手が届かない心の恋人に、私は毎日のように語り掛けていました。」
キムタクとなら、つき合える可能性もあるかもしれない、と言いきる自信はみごと!誰も臨んだことのない困難を前にするほどに、情熱も高まり、負けず嫌いな方だ。生気の衰えた日本で生きてきたからこそ、もっとも優れた生命力のもちぬしを求める気持ちが強まるのかもしれない。
しかし、再会の努力をしはじめると、予想をこえて、何かに導かれるように、さまざまなことが展開していった。驚いたことに、二度会った後、ジャクソンが自分の村に招待してくれるのだ。果てしないサバンナの村を訪れると、村中が総出で出迎え、盛大な歓迎会でもてなしてくれる。そして長老の言葉「私たちはあなたを、彼の第二夫人として迎えるつもりなんだが。」
私が心底感心するのが、彼らの決断のいさぎよさと正しさである。頭であれこれ迷うことがない。たった二度しか会っていない、全くの別世界の人と結婚するかどうかを、ジャクソンは根本的な直観力だけで決め、その確信は揺らがない。「まだ会って間もないのに、どうして結婚を決めたの?」と問うと、彼は静かに答える。「血だ。神が計画したんだ。」
そして彼は、異世界から来た嫁に、まっすぐな誠意で、どんな文化摩擦も苦労ともせず、当然のこととして尽くすのである。
第一夫人も、「尊敬する夫が選んだ人だから、一緒の家族になれて嬉しい」と純粋にいう。
この単純に澄んで、懐の深いマサイの人々には、こざかしい知恵ではない、知性の精髄(それを「血」と呼んでいるのだろう)だけが宿っていると思う。
私が驚かされたのが、マサイの性生活の話だった。
ものすごくあっさりしているというのだ。スキンシップがない。女性に快感がないと男女とも信じている。男女とも相手の局所は、見たり触れたりはタブーとされている。夫の割礼のあとがどうなっているかもわからない。一夫多妻でも争いが起きないのは、スキンシップがないおかげでもあるという。日常生活でも夫婦は別居し、触れ合うこともなく、慣れない彼女は、寂しさに苦しむことになる。夫は非常に柔軟な精神の人でもあり、できるだけ彼女に歩み寄ろうとするところに、誠意ある愛情が感じられるが。
全体として、マサイは性エネルギーを性のまま使うのではなく、非常によく昇華して、野性の知の形で発揮しているように見える。その昇華は、個人的な努力でなされるのではなく、タブーや厳格な掟のような集団的規範そして、女子割礼による感覚変工に助けられて、なされているようだ。女子割礼がマサイ文化のなかでは、高度な人間性を保つ機能をもっているらしいことも推測でき、簡単に批判できないことが知られた。
永松真紀『私の夫はマサイ戦士』新潮社 2006年
この著者のサイトも見つけました。
http://www.masailand.com マサイ村へようこそ
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