新しい身体文化の創生
IT化にともない、身体の遣い方はここ10数年で大きく変わり、それにより、ボディ・バランスを崩す人が少なくありません。本来は身体は非常に柔軟なもので、人類は農業化にも工業化にも身体のあり方を変化させて適応してきました。ただ今度の情報化は急速なので、身体の柔軟性を発揮させるには手助けがいると思います。どのように身体を遣うのが時代に適しているのか、身体の潜在力を最大に生かせるのか、美しく、創造的で、楽しいのか。多面から検討しながら、身体文化を見出したり創り出したりしたいと思います。江戸川大学の身体論コースをそのような活動の拠点にします。
- 愉気を生活のなかに
- 私たちは「痛いところに思わず手を当てる」という身体の能力があって、知らずに発揮しています。また敏感な人なら、「他の人の痛いところにも手がいってしまう」ことも珍しくありません。この身体に根ざす能力を十全に発揮すれば、私たちの日々体験する、ちょっとした心身の不調に適切に対処できます。プロの整体師たちは薬も機械も使わずに、殆どの心身の不調に対応できていますが、ちょっとした不調くらいならプロでなくても、自分自身や友人、家族同士で十分解消できるのです。目の疲れ、神経過敏、肝臓の疲れ、捻挫、痔、過呼吸などのとき、身近な人同士で手を当てて解消するのは、すばらしいことではないでしょうか。身近な人への信頼感も育てられますし、医者任せにしない自立心や自信も強まります。不調への対処を通じて、自分の身体をよりよく知ることもできます。今の日本人が苦手な、身体コミュニケーションも上手になります。野口整体の「愉気法」の実習、実践を重ねることで、愉気という文化を広めています。
- ダンス
- ダンス、舞踊は音楽とともに古く、言葉よりもよく自分を表現することも多いです。人々が一つになるために踊りますし、ダンスに夢中になれば一晩中踊っても、疲れることもないどころか、心身の悪いところはひとりでに治ってしまいます。以前『完全自殺マニュアル』という本を書いた方も、ダンスを知って「死なないで生きよう」と変わったそうです。ダンスは男として女としての身体を育てます。ダンスでは身体コミュニケーションができます。ダンスはそれ自体本当に楽しいものです。でも今の日本では、誰もが共通に踊れるダンスがありません。年代や階層や性別でダンスのジャンルが分かれていますし、ダンス人口は多くありません。そんななか、できるだけみんなが踊れる、しかも奥深くて喜び多いダンスを、盛んにしていこうとしています。私はいくつかのダンスの授業を担当し、ダンスサークルの顧問や指導をしています。
- 大学生への性教育
- 「中年童貞」「中年処女」ということばが話題になっています。当人達は結局はそうであることを喜んでいないと言っていいようです。一方、大学生でも、ゲームや映像でない生身の人間に性的に反応しにくい人、身体コミュニケーション力が非常に貧しい人、劣等感が強くて恋愛や性行動に到れないような人を数多くみかけます。ある時から私は、こういう若い人を放っておいて、大人の男、大人の女に育つための手助けをしないのは、上の年代の者としての責任放棄ではないかと思うようになりました。20歳前後で、大学教育として許される枠内において、身体コミュニケーションなどの実習と、生物学に偏らない人間の性の文化の知識を教えることで、「40歳童貞・・」への道を避けることができるのではないでしょうか。ちなみに私のこのような授業は、大学生からは非常によい反響をもらっています。
- コミュニケーションを変え、コミュニティを変える
- 今の日本は、コミュニケーションの危機にあると思います。閉鎖的な村や、終身雇用の会社では通用した「以心伝心」のコミュニケーションが、社会がボーダーレスになると使えません。かといって日本人は、はっきり自己主張をすることにも慣れていません。「いいたいことが言えない」「言っても通じない」「その場で言わないで蔭で言う人がいる」「身勝手なクレームばかり言われる」「勝手に仕切られる」など、さまざまなコミュニティも、コミュニケーションのことで問題を抱えてしまっているところが多いようです。こういう過渡期的な状況では、異なった背景の初対面の人とのコミュニケーションに慣れること、「以心伝心」と「はっきりした自己主張」の両方に自覚的に習熟すること、コミュニケーションによってどの個人の意見も超えた価値のあるものが生まれるのを体験することが大事だと思います。学生主催の、学内、学外の人が集まって表現やコミュニケーションを楽しむ場などを、応援しています。
